
「確定拠出年金」
・なんだかよく分からない
・メリットの話は聞くけど、何かデメリットもあるんじゃないの?
・本当にやったほうがトクなの?
金融庁の報告書をきっかけとした老後2000万円問題のニュース報道もあり、将来に向けた貯蓄・資産運用の必要性は増すばかり。
何かしなければと考え、この確定拠出年金について気になっている方も多いと思います。
この確定拠出年金には確かにデメリットもあるため全ての人に向くわけではありませんが、老後に向けた資産形成に非常に役に立つためぜひ活用いただきたい制度です。
そこで、この記事では皆さんが一番気になる確定拠出年金の「デメリット」について徹底的に解説し、そのデメリットを理解したうえでフル活用してもらえるようまとめました。
ぜひ参考にしてみてください。
≪確定拠出年金とは≫ |
1章 確定拠出年金 9つのデメリット!
確定拠出年金を積極的に活用するかどうかはデメリットをしっかりと理解したうえで考える必要があります。
それは確定拠出年金は税制面では大きなメリットがあり、老後に向けた資産形成に非常に役に立つ半面、デメリットもあり全ての人に向く制度ではないからです。
この章では「9つのデメリット」について徹底的に解説していきます。
デメリット①:「60歳まで引き出すことができない」
確定拠出年金の一番のデメリットは「60歳までお金を引き出すことができない」ことです。これは確定拠出年金が老後の年金不足を補う目的で導入された制度だからです。
とはいえ、人生には想定していなかったタイミングで大きなお金が必要となる場合があります。
・急に住宅購入することになった
・子供が私立の高校に行くことになった
・車が壊れて買換えが必要になった
など想定外の支出があるととても困りますよね。
ライフプランを立てた上で、活用するかどうかを検討しましょう。
デメリット②:「途中で解約ができない」
確定拠出年金は企業型DCで強制加入となった場合だけでなく、iDeCoのように任意に加入した場合についても、途中でやめる事はできません。
例えば企業型DCに加入している方が転職をした場合は、転職先に企業型DCがあればそちらに移し(移換・ポータビリティと言います)、ない場合はiDeCoに移して続けることになります。
例外として確定拠出年金で60歳よりも前に脱退となり受取りができる場合はありますが、次のようにその条件は非常に厳しいといえます。
≪確定拠出年金で60歳よりも前に脱退となり受取りができる場合≫ 【企業型DCの場合】 (1)企業型確定拠出年金の加入者・運用指図者またはiDeCoの加入者・運用指図者でないこと 【iDeCoの場合】 (1)国民年金の保険料免除者であること |
デメリット③:「老後に受け取る年金額は運用結果しだい」
確定拠出年金では、将来いくら受け取ることができるか分かりません。運用結果しだいとなります。
これは確定拠出年金は加入者自身が運用先を指定し、その運用の成果により将来の年金受取額が決まる制度だからです。
この運用先として企業型・個人型によらず「元本確保型」と「元本変動型」の2通りが用意されています。
元本確保型 |
積み立てた元本が確保されるタイプ。 具体的には「定期預金」と「保険」があり、元本割れのリスクが無いかわりに現在の低金利の 状況では将来の生活に必要な資金を増やすことができないデメリットがあります。 |
元本変動型 |
積み立てた元本が変動するタイプ。 「投資信託」の仕組みで運用するようになっており、国内外の株式や債券などに分散して投資 を行います。運用成果によって値上がりして資産が増えることがありますが、値下がりして 資産が減ってしまうこともあります。 |
デメリット④:「自分で運用先を選ばなければならない」
確定拠出年金では、運用商品ラインナップの中からどの商品で運用するか、自分で決めなければいけません。
(初めての方にとっては意外とこれが大変です。)
用意されている運用商品ラインナップのなかであれば「元本確保型」でも「元本変動型」でもどの商品を選んでもよく、決められた掛金の範囲内であれば複数の商品を選択しその割合を決めることもできます。
例えば定期預金に30%、外国株式に20%、日本株式に20%、外国債権に30% などとしてもOKです。
しかしながら、実際には企業型DCでもその商品数は平均21本、iDeCoでは商品数が多いSBI証券では合計75本もありどう選べばいいのか迷う方も多くいらっしゃいます。
よくわからず、何となくランキングに任せて選んでしまったりすると、”元本割れ”となりかねません。
デメリット⑤:「退職金が多くもらえる人は大きなメリットが薄まる」
公務員の方など退職金を多くもらえる方はせっかくのメリットが薄まることがあります。
確定拠出年金で運用した資金を一時金で受取りする場合、退職所得控除という大きな税制優遇が使えます。
しかし、勤務先などから退職金を受取るとこの退職所得控除は合算されて計算されてしまうことがあり、せっかくのメリットが小さくなってしまう場合があります。
企業型DCに加入している方がマッチング拠出などを検討する際や、個人事業主の方が小規模企業共済など他の退職所得控除の対象となる制度に加入している場合も同様となります。
デメリット⑥:「転職・独立などした際に資産運用に影響がでる」
確定拠出年金は、仕事内容や勤務先によって加入できる内容や条件が変わるため転職・独立などした際にはその資産運用にも影響があるため注意が必要です。
例えば、企業型DCに加入していた方が企業型DCのある別会社に転職した場合、その資産を非課税で移換(ポータビリティ)することはできるのですが、次のような問題があります。
・移換時に今まで運用していた資産がいったん売却され現金化されてしまう
>運用が不調なときでも移換のタイミングで現金化しなければならないことがあります。
・新しい企業型DCに選びたい運用商品が無いことがある
>企業型DCの金融機関は会社ごとに異なり、運用商品の中身やコスト(信託報酬)などが違ってきますがその中から選ばなければならなくなります。
・会社によって企業型DCの制度(マッチング拠出やiDeCoとの同時加入の可否など)に差がある
>転職にともなって新しい会社の企業型DCの制度に合わせなければならなくなります。
・移換手続きを忘れてしまうと運用が止まってしまう
>移換手続きを忘れて退職(加入資格喪失)後6カ月が過ぎると、その資産は現金化され、国民年金基金連合会に自動移換されてしまいます。
もちろん、企業型DCの加入者が独立して個人事業主になった場合や、iDeCoに加入していた方が企業型DCのある会社に転職した場合でも同様の問題が起きます。
転職や独立などする際には、確定拠出年金の資産運用に大きな影響がでることを覚えておいてください。
デメリット⑦:「特別法人税という隠れリスクがある」
現在は“凍結”されていますが、本来は確定拠出年金の積立金には特別法人税として年率1.173%が課税されます。
これは運用実績には関係なく課税されるものです。
仮にこの特別法人税が再開された場合は最低でも、年率1.173%を超える運用をしないと元本割れとなり、毎年積立金が減っていくことを意味しています。
この特別法人税の“凍結”は1999年から20年以上のあいだ繰り返し延長されておりますが、未だに廃止するのか凍結解除するのかは決まっておりませんので、隠れリスクとして残っています。
≪特別法人税とは≫ |
デメリット⑧:「毎月の手数料がかかる【iDeCo】」
iDeCoに加入すると色々な手数料がかかりますが、そのなかでも運用を続けるためには口座管理手数料が毎月かかり続けます。
確定拠出年金は長い時間をかけて運用しますので、その運用期間中にかかる手数料は少ないほうが当然いいですよね。
企業型DCであればその費用は会社が負担してくれますが、iDeCoの場合は加入者の負担となり、しかも選択する金融機関によってもかなりの差がありますので注意が必要です。
※出典「iDeCoナビ(個人型確定拠出年金ナビ)」(2019年10月1日現在)
初回のみかかる手数料はどの金融機関を選んでもほぼ同じですので問題ありません。
しかし、掛金を支払う場合については、毎月かかる手数料が171円~629円と約3.7倍もの差があり、さらに掛金を支払わない場合においては66円~524円と約8倍もの大きな差があります。
掛金を支払っていれば税金の優遇を受けられるためまだマシと言えるかもしれませんが、掛金を支払わず運用のみを続けているときに毎月524円(年間6,288円)もの手数料がずっとかかってしまうのはとても大きな負担になってしまいます。
なお、iDeCoを始めたあとで金融機関を変更することは可能ですが、非常に手間がかかり運用の点からもロスが出ますので、事前にしっかりと確認しておくことがポイントです。
デメリット⑨:「傷病手当金・失業手当などが減額される【選択制DC】」
企業型DCのなかで「選択制DC」に加入すると、気付かないうちに傷病手当金や失業手当などが減額されますので注意が必要です。
これは他の確定拠出年金との違いでもあるのですが、「選択制DC」に加入すると制度運営に必要なコストは会社が負担してくれますが、掛金は「今の自分の給与の一部を退職金の積立のために支払う」ことになります。
掛金分の給与が減ったことで給与にかかる社会保険料が減り、社会保険料が減ることでその分の給付(受けられるサービス)も減るという訳です。
※社会保険料は標準報酬月額を等級にならして計算されるので、掛金の拠出がある一定の範囲内であれば社会保険料も減りませんし、給付も減りません。
もちろん、選択制DCに支払った分だけ給与が減ることで加入者自身が負担する社会保険料が減り、あわせて所得税・住民税も減りますので、メリット・デメリットを総合的に判断する必要があるといえます。
ちなみに通常の企業型DCの掛金は会社が支払ってくれますので問題ありませんし、マッチング拠出した掛金やiDeCoの掛金は加入者の「全額所得控除」となるだけで社会保険料への影響はありませんので安心してください。
2章 確定拠出年金の3つの税制優遇メリット
確定拠出年金には、通常の投資信託による運用と較べて加入者に対する3つの税制優遇メリットがあります。
メリット①:「掛金が非課税(または全額所得控除)になる」
確定拠出年金は、掛金が非課税(または全額所得控除)となり所得税など引かれずに全額を運用にまわすことができるため、掛金を支払っただけで確実にメリットを得る事ができます。
とくに所得税は5%~最大45%と年収が高い人ほど税率が高くなりますので、高所得者ほどメリットが大きくなっているといえます。
【企業型DC】
企業型DCで会社が支払う掛金は非課税(加入者の給与扱いとならない)となりますが、同じ金額を給与で受取った場合は給与所得として、社会保険料・所得税・住民税がかかってしまいます。
【iDeCo】
iDeCoで加入者が支払う掛金は全額所得控除となるため、iDeCoに掛金を支払うことで計算上の年収が下がった事となり、その分の所得税と住民税が戻ってきます。
※パートやアルバイトなどで所得税が非課税(所得税を払っていない人)の方にとっては、このメリットはありません。
メリット②:「運用期間中は非課税で運用ができる」
通常、一般的な金融商品で運用すると運用益に対して20.315%の税金がかかってきますが、確定拠出年金ではこの運用益に税金はかかりません。
このため再投資に回る金額が大きくなり長期の運用を考えた際には効率的に資産運用ができます。
※前述しましたが、現在は“凍結”されていますが、本来は確定拠出年金の積立金には特別法人税として年率1.173%が課税されます。
メリット③:「受取り時にも大きな控除があり税金が少なくなる」
確定拠出年金は、一括で受取る時には「退職所得控除」として、年金で受取る時には「公的年金控除」として大きな控除があるため、その受取り時にかかる税金が少なくなります。
3章 確定拠出年金のかしこい使い方
これまで確定拠出年金のデメリットや注意点などに注目してきましたが、老後に向けた資産形成に非常に役に立つ制度であることは事実ですので、ここからは確定拠出年金のかしこい使い方やコツについてまとめてみます。
3-1 デメリットを活かした使い方をしよう
確定拠出年金はデメリットも多くありますが、このデメリットは逆に活かすこともできます。
“使うお金とは分けて”管理することができる
お金を貯めて増やすコツは、“使うお金とは分けて”管理をして、“時間を味方につけて長期運用”をすることです。60歳まで引き出すことも解約することもできないデメリットを逆に活用すれば、コツコツと自分年金を守って育てていくことができます。
いつでも使う事ができるお金はついつい使ってしまって、後で思い出して何に使ったかわからない事もあるかと思います。そんな経験のある方には、確定拠出年金は老後資金を貯めて増やすためにピッタリではないでしょうか。
投資信託は長期運用に向いている
「老後に受け取る年金額は運用結果しだい」は、デメリットではありますが、前向きに捉えることができると私は思います。
確定拠出年金の運用商品の多くは投資信託です。投資信託は複数の投資対象を束ねた分散投資が特徴で長期運用に向いています。
もちろん「元本確保型」を選んでおけば、積み立てた元本が守られるため元本割れはありませんが、現在の低金利の状況では将来の生活に必要な資金を増やすことはできません。
日本が経済成長を目指し2%の物価上昇率を目標とするのであれば、貯蓄や運用資産も毎年2%以上の成長をさせなければ元本は割れていなくても実質的にはお金の価値は減ってしまうことになります。
私たちが老後を迎える頃の日本の物価や景気がどのようになっているか、今からではわからない状況で大切な老後資産を低金利な場所に長期間置いておくほうがリスクではないでしょうか。
老後資金の運用として投資信託を選択した確定拠出年金を積極的に活用することで、リスクを抑えつつ世界全体の経済成長に合わせて資産を育てていきませんか。
マネーリテラシーを高められる
確定拠出年金は自分で運用先を選ばなければならず、投資信託などの運用商品を自分で選択できない初心者の人などにとってはデメリットと感じられると思います。
これは一つ、”チャンス”と考えることができます。
この機会にマネーリテラシー(お金に関する知識)を高めていきましょう。この力をつけていくことで、自分たちでお金を守り、育てていくことができるようになります。
そこで活用したいのが、FP開催のセミナーへの参加です。何から始めればよいか、何から勉強したらいいかわからない方は、その一歩がここから踏み出せます。ぜひこういったところで学び、マネーリテラシーをつけていってください。
関連記事また、「勉強する時間がない!」という方や「自分で選ぶのは不安…」という方は、FPに直接相談をして、商品選びのアドバイスをもらう、というやり方が早いかもしれません。
関連記事3-2 他の運用商品(NISA・積立NISA・保険など)との組合せがおすすめ!
繰り返しになりますが、確定拠出年金は税制面では大きなメリットがあり老後に向けた資産形成に非常に役に立つ半面とても大きなデメリットもありますので、他の運用商品(NISA・積立NISA・保険など)と組合せて活用することをおすすめいたします。
例えば、まだライフプランが固まっておらず年収も低い20代独身の方と、小さなお子様がいる30代既婚者、定年退職を迎える50代後半の方では確定拠出年金の活用方法が変わってきます。
ひとつの商品や制度だけで運用をしようとすると無理がでますので、お金の使い道や運用期間に応じて他の運用商品(NISA・積立NISA・保険など)と組合せて総合的に資産運用することをおすすめいたします。
また、”総合的に”となるとさらに資産運用のハードルは上がっていきますので、これも不安であれば専門家に相談してみてください。
4章 確定拠出年金(iDeCo等)に向いていない人
強制加入である企業型DCはともかく、確定拠出年金に加入するかどうか選べる人にとって自分が活用すべきかどうか判断に迷うことも多いかと思います。
そこで、確定拠出年金のなかでも自分の意思で加入を選択できる「企業型DCのマッチング拠出とiDeCo」(iDeCo等)についてやってはいけない人をまとめました。
4-1 貯蓄の金額が100万円以下の人
ここで言う「貯蓄額100万円」は例えですが、まだ貯蓄の金額が少ない方はやってはいけません。
なぜなら、始めてしまって、のちに
・子供の学費が足りない!
・急に車が壊れてしまってローンを組んだ!
・長期で入院することになって困った!
など、突発的にお金が必要になってしまい、後で困ってしまっては元も子もありません。
実際には家族構成や年齢、収入やライフプランなどを考えてムリなく60歳まで続けられるようであれば積極的に活用してみましょう。
4-2 住宅ローン減税で所得税・住民税の還付を全額受けている人
住宅ローン減税で所得税・住民税の還付を全額受けている人はおすすめできません。
確定拠出年金(iDeCo等)も支払った掛金が全額所得控除になり、所得税・住民税が戻ってくるメリットがありますが、先に住宅ローン減税で税金の還付を全額受けてしまっていてはそれ以上所得控除をするメリットがありません。
しかもiDeCoの場合は口座管理料と呼ばれる運用中にかかってしまう手数料も加入者の負担ですので、少なくとも住宅ローンの返済が進み口座管理料よりも所得控除のメリットが上回るまではiDeCoへの加入は待った方がよいと言えるでしょう。
住宅ローン減税とは |
4-3 専業主婦(主夫)
いわゆる専業主婦(主夫)・パート・アルバイトなどで所得税が非課税(所得税を払っていない人)の方にとっては所得控除のメリットはまったくありません。
もちろん運用中が非課税であること・受取り時にも控除があることなどに魅力を感じているのであれば活用しても良いのですが、口座管理料を負担し60歳まで引き出すこともやめることもできない制度であることを考えるとおすすめはできません。
5章 まとめ
確定拠出年金の加入者数は企業型DC・iDeCoともに年々増加しており、自身で積極的に運用をして資産を増やそうとするかたも増えてきています。
しかし未だに「会社の制度で加入したので内容はよくわかっていない」、「加入はしたもののデメリットがあるのではと不安に思っている」、「興味はあるが損はしたくないので加入していない」など、さまざまな不安な声を聞きます。
貯蓄から投資へという流れのなかで今後はより将来への資産運用の必要性は高まっていきますが不安なままでは積極的な投資はできません。
この記事では確定拠出年金の「デメリット」について徹底的に解説し、そのデメリットを理解したうえでフル活用してもらえるようにまとめました。
この記事をご覧になったかたはぜひ一歩踏み出してみてください。 もし何からはじめればよいのかわからない人はファイナンシャルプランナーが開催するセミナーや個別相談会に参加してみてください。
きっと新しい発見があると思いますよ。
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