年金の繰り下げはお勧めできない!繰り上げ繰り下げ判断の重要ポイント

年金の繰り下げはお勧めできない!繰り上げ繰り下げ判断の重要ポイント

「年金の繰り下げはした方がいいのかな?」
「どれくらいお得になるんだろう?」

そうお思いの方も多いのではないでしょうか?最近は年金の繰り下げが話題になっていますよね。

年金の繰り下げとは、繰り下げすることにより、ひと月あたり0.7%増額、最大5年間、70歳まで繰り下げることで、受け取る年金を最大42%増額することが可能といったものです。いわば“年金の資産運用”ですね。

「42%も増額になるなら繰り下げしたほうがいいのではないか?」

いいえ。

ほとんどの方にはお勧めできません
(年金を繰り下げてもいいのは、人一倍健康で、かなりの長生きをする自信がある方のみ)

さらに言えば、「年金の繰り上げ」もお勧めできません。

私が伝えたいのは、年金の繰り上げ・下げのお金に頼るのではなく、老後に向けて「自分の貯蓄を増やす」ことが重要。ということです。

この記事では

・年金の繰り下げがお勧めできない理由
・年金の繰り下げよりも「自分の貯蓄」を増やそう
・年金繰り下げ時の注意点
・年金繰り上げについて

について詳しく、損益分岐点などの具体的数字を交えながら解説していきます。

この記事を読んで、あなた自身が「年金の繰り上げをするのかしないのか?」を決める後押しができれば幸いです。

この記事を書いた人
目次

年金の繰り下げをお勧めできない3つの理由

年金を繰り下げて受給すると1カ月0.7%、最大5年間の繰り下げにより42%の増額が可能です。
しかしここで考えていただきたいのは

・当然繰り下げている期間は年金を受け取っていない
・年金の受給額が増えると税金、社会保険料が増える可能性がある
・男性の平均寿命は81歳、女性は87歳

ということです。

損益分岐点まで遠い道のり

年金を繰り下げた場合、当然繰り下げている期間は年金を受け取らないことになります。
繰り下げをした期間受け取らなかった年金分を超えるのに、実は“11年も”かかるのです。

 66歳67歳68歳69歳70歳
増額率8.4%16.8%25.2%33.6%42%
損益
分岐点
77歳78歳79歳80歳81歳

人によって11年という年月の捉え方は様々かと思いますが、私はとても長い期間だと思えて仕方ありません

損益分岐点の年齢を迎える前に亡くなってしまう可能性もある

損益分岐点は80歳前後とお伝えしましたが、その損益分岐点の年齢を迎える前に、残念ながら亡くなってしまう可能性もあり得ます。

なぜなら、男性の平均寿命は81歳女性は87歳(2018年のデータ)ほどだからです。
(参照:生命保険文化センター|日本人の平均寿命はどれくらい?

年金を繰り下げて得をするには、“長生きする”ことが条件になります。

昨今は「人生100年時代」と言われるように昔に比べて長生きにはなってきています。しかし、“繰り下げした効果を得る前に亡くなってしまうことは十分にあり得る”ということがデータで証明されています。

年金受給額が増えると税金・社会保険料が増える。そのため“手取りが減る”

年金にも「税金・社会保険料」がその年の所得に対してかかります。
この「税金・社会保険料」は年金の増加の影響を受けます

年金の額面の損益分岐点が11年後であっても、手取りの損益分岐点はさらに先になる可能性があるのです

「最大5年間の繰り下げにより42%の増額」と前述しましたが、実際のところ、生涯受け取る年金の総額が42%増えるわけではなく、さらに、損益分岐点は11年を超えるものになります。
(つまり、もっと長生きしなければいけないことになります。)

年金に頼らず「自分の貯蓄」を増やすことを検討しよう

私が勧めたいのは、年金の繰り下げで老後資金を増やすのではなく、できる限り「自分の貯蓄」を増やすことです。

「ご自身の貯蓄」には年金よりも優れている点があります。
ここではそのメリットをお伝えしていきます。

「ご自身の貯蓄」は何の影響も受けず、金額は変わらない

「ご自身の貯蓄」はもちろん、ご自身が管理するものですので、何の影響も受けません。つまり、金額はいつでも、何があっても変わりません。

これは当たり前のことを言っているように思えますが……。

しかし、年金は違います。年金額は毎年変動します
これは物価の上昇や賃金の上昇などの影響、また将来世帯への負担が重たくなりすぎないようにという目的で毎年見直しが行われているからです。

もちろん、年金の繰り下げについても同様です。上記理由によって変動する可能性があります。

また年金の受け取りには社会保険料や税金がかかるとお伝えしましたが、税金や社会保険料も将来、負担が増えないとは限りません。

つまり、年金の増額は約束されても、手取りでいくらもらえるかは約束されてはいないということです。

ご自身の貯蓄」は誰にも何にも左右されない財産となりますので、安心して老後資金にできるというメリットがあります。

年金は相続できないが「ご自身の貯蓄」は相続できる

年金はあなたが亡くなった場合、誰も変わりに受け取ることができません。
(遺族年金はありますが、これは後にお話ししますが繰り下げしても増額されません。)

しかし「ご自身の貯蓄」は相続として、家族や大事な人に残すことができる、というメリットがあります。

「ご自身の貯蓄」は様々な運用を自分で選択することができる

「ご自身の貯蓄」であれば、投資信託や保険といった資産運用を行うことが可能になります。

これにより、高い運用成績を残すことができたり、保険を使った運用であれば死亡保障をつけることも可能になります。

ここで年金の繰り下げを見てみましょう。
あなたが例えば85歳まで生きると想定して、年金を5年繰り下げして受け取ったとします。

年金額が42%増額していますので、全体では20年で106.5%の運用成績といったところです。

これは他の資産運用の方法と比べると、決して高い成績ではありません。
さらに、前章でお伝えした通り、“死んでしまうと何も残りません”。

年金を生活のベースとして、「ご自身の貯蓄」を様々な運用商品を使って運用をしてみてもいいのではないでしょうか。

老後に向けて「ご自身の貯蓄」を作る方法を、以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひ読んでみてください

それでも「年金繰り下げ」を選択する際の注意点

「私は平均寿命を軽く超えて、元気に生きるぞ!」

という方にとっては、年金繰り下げは老後資金づくりの強い味方になってくれる可能性はあります。

……しかしながら、年金の繰り下げには見落とされがちな注意点がいくつかあります。

年金額の損得だけではないデメリットがありますのでぜひ知っておいてください。
特に厚生年金の方は必ず読んでください。

遺族年金は増額されない(厚生年金のみ)

年金を繰り下げて増額させても、亡くなってしまったときに妻がもらえる遺族厚生年金は増額されません
(遺族厚生年金は会社員など厚生年金の加入者の方が亡くなったときに支給されます。)

注意すべきなのは、遺族厚生年金は65歳時点の年金額を基準に計算されるものだからです。

つまり繰り下げた期間中に取り崩した「ご自身の貯蓄」がまるまる減ってしまうことになります。

加給年金、振替加算は繰り下げられない(厚生年金のみ)

年金の繰り下げをすると「加給年金」「振替加算」という、別途年金を増額してもらえるものがもらえなくなる可能性があります。

加給年金と配偶者加給年金額の特別加算額がもらえなくなる

加給年金とは、生計を維持している65歳未満の配偶者、または18歳以下の子がいるときなどに、老齢厚生年金の受給者が受給することができる、言わば家族手当のようなもので、本来、下記の金額が支給されます。

対象者 加齢年金額 年齢制限
配偶者 224,900円 65歳未満であること
(大正15年4月1日以前に生まれた配偶者には年齢制限はありません)
1人目・2人目の子 各224,900円 18歳到達年度の末日までの間の子
または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子
3人目以降の子 各75,000円 18歳到達年度の末日までの間の子
または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子

参照:日本年金機構|加給年金額と振替加算

またこれだけではなく「配偶者加給年金額の特別加算額」というものも加算されます。

受給権者の生年月日 特別加算額 加給年金額の合計額
昭和9年4月2日~昭和15年4月1日 33,200円 258,100円
昭和15年4月2日~昭和16年4月1日 66,400円 291,300円
昭和16年4月2日~昭和17年4月1日 99,600円 324,500円
昭和17年4月2日~昭和18年4月1日 132,700円 357,600円
昭和18年4月2日以後 166,000円 390,900円

参照:日本年金機構|加給年金額と振替加算

これは老齢厚生年金の受給と同時に本来もらえるものなのですが、老齢厚生年金を繰り下げした場合、一緒に繰り下げはされず、繰り下げた部分は消滅してしまいます。つまり、もらえません

例えば、今年(2020年)65歳を迎えられる男性の場合、昭和30年生まれです。
65歳到達時点で、18歳以下の子供がいる方は少ないと考えた場合、3歳年下の奥様だけがいるとしましょう。この場合、加給年金が発生することになります。

しかし、繰り下げを行うと、本来もらえるはずだった加給年金がもらえなくなってしまいます

*繰り下げを行わなかった場合(本来もらえる加給年金額)*

加給年金額=224,500円
配偶者加給年金額の特別加算=165,600円
合計=390,100円

年額約39万円がご主人の年金にプラス

→年金の繰り下げをすると、この加給年金がもらえなくなります!

年金の繰り下げを1年行うと、加給年金の1年分がもらえなくなります。(実際には老齢による年金の支給は月単位のため、月単位で繰下げをした場合には12ヶ月で割った金額が月単位でもらえなくなります。)

年金を繰り下げすることでもらえるはずだった加給年金がもらえないのは大きな損と言えます。

振替加算がもらえなくなる

振替加算は、奥様の老齢基礎年金に加算されて支給されるものですが、奥様が老齢基礎年金を繰り下げすると、この振替加算は支給されなくなってしまいます。

■振替加算とは
配偶者が65歳に到達すると、配偶者の年金受給が開始されますが、加給年金はなくなってしまいます。一般的に、配偶者、主に奥様は働いていなかった方が多いため、年金の受給額も少額な方が多いです。
振替加算』とは、そのような場合に、配偶者が65歳に到達した時点から、受け取る年金に上乗せして支給されるものになります。

つまり、ご主人の加給年金の支給がされなくなったあと、奥様の年金には、この振替加算が支給され、実質、年金額が増えることになります。

振替加算の額は、昭和61年4月1日に59歳以上(大正15年4月2日~昭和2年4月1日生まれ)の方については、配偶者加給年金額と同額の224,900円で、それ以後年齢が若くなるごとに減額していき、昭和61年4月1日に20歳未満(昭和41年4月2日以後生まれ)の方はゼロとなるように決められています。

参照:日本年金機構|加給年金額と振替加算

(※振替加算の詳細な金額については日本年金機構のHPをご覧ください。)

在職老齢年金で減額された分は戻らない(厚生年金のみ)

在職老齢年金とは受け取れる年金の名前ではなく、在職して給料をもらっている場合、給料と老齢厚生年金を合算した金額が一定の割合以上だと年金を減額する制度のことです。

つまり働いて収入が一定以上あるなら、年金を減らすという制度です。

例えば、65歳以上から年金をもらいながらお勤めをした場合、年金と給与などの受け取りが47万円を超えてしまった場合、年金が減る対象になります。
(※2020年現在は60歳から65歳未満だと28万円、65歳以上だと47万円が基準)

では年金を受け取ったら減らされるなら、年金を受け取らず繰り下げたほうがいいのではないかと思われるかもしれません。

しかし繰り下げをしても、その年に本来受給するはずの年金を基準としますので、減額の対象になっていれば減額された金額が繰り下げられることになります。

特別支給の老齢厚生年金は繰り下げできない(厚生年金のみ)

昭和60年の法改正前は年金の支給は60歳からでした。
特別支給の老齢厚生年金とは、年金の支給が65歳からになったことで、急に制度を変更してしまうと60歳からもらう予定をしていた方が困ってしまいます。
そこで支給開始を段階的に引き上げるために設けられた制度です。

つまり該当する方は60歳から64歳に受け取れる年金ということです。

特別支給の老齢厚生年金の支給要件は以下の要件を満たしている必要があります。

●男性の場合、昭和36年4月1日以前に生まれたこと。
●女性の場合、昭和41年4月1日以前に生まれたこと。
●老齢基礎年金の受給資格期間(10年)があること。
●厚生年金保険等に1年以上加入していたこと。
●60歳以上であること。

この特別支給の老齢厚生年金は65歳で受給権が消滅しますし、増額もできません。

年金の繰り上げも基本的には“お勧めできない”

年金の繰り下げはお勧めできませんとお伝えしてきましたが、年金の繰り上げはどうでしょうか?

年金の繰り上げも、基本的にはお勧めできません

ただし、あなたがご自身の貯蓄があまりなく、年金を繰り上げないと生活をしていくことができないなら、以下の注意点をふまえた上で繰り上げをしていきましょう。

繰り上げ一カ月につき0.5%の減額が一生涯続く(国民年金、厚生年金)

本来65歳からもらうはずの年金を繰り上げした場合、一カ月につき0.5%減額されます。
早く受け取ったことにより減額されていきますので、以下の損益分岐点を知っておくと良いかもしれません。

 60歳61歳62歳63歳64歳
減額率30%24%18%12%6%
損益
分岐点
76歳77歳78歳79歳80歳

障害基礎年金がもらえなくなる可能性がある(国民年金)

年金繰り上げは余程老後の資金に困っている方、もしくは長生きはしないだろうと考えている方が検討することが多いかもしれません。

しかし、健康に自信がない方には年金繰り上げはおすすめできません

年金を繰り上げる一番の注意点は、障害基礎年金がもらえなくなる可能性があることです。
障害基礎年金は重い障害状態の方に支給される年金です。

60歳以降の高齢になると当然こういった障害状態に該当するリスクも増えてきます。
一般的には65歳に到達するまでに障害等級に該当した場合にこの障害基礎年金がもらえるようになります。

しかし繰り上げをして受給をした場合、65歳に到達したものと同じ見方をされてしまうため、障害基礎年金は支給されない可能性があります。

障害基礎年金でもらえる年額は、
・障害等級1級…975,125円
・障害等級2級…780,100円

の年金額がもらえます。

老齢基礎年金で65歳からもらえる金額は780,100円、これを60歳まで繰り上げした場合、546,100円になります。

もしあなたが繰り上げをしたあと障害等級1級に該当した場合、975,125円もらえるはずだった年金がもらえなくなる可能性があるということです。

障害状態になんてならない!と健康に自信を持てる方はいいかもしれませんが、余程自信がある方でないと、繰り上げはおすすめできません。

また障害状態にならないくらい健康に自信があるならば、長生きする可能性が高いとも考えられますので年金の繰り上げはおすすめできないと言えるでしょう。

寡婦年金が支給されなくなる(国民年金)

寡婦年金とは第一号被保険者(自営業者など)の夫が亡くなった場合に妻に支給されるものであり、夫が受け取ることはありません。

つまりこれは妻が年金の繰り上げを行ったときに起こりうる注意点です。

寡婦年金は夫が亡くなった場合に、妻が老齢基礎年金をもらうまでの60歳から65歳に到達するまでの間もらえる年金です。

夫がずっと自営業であった場合、夫がもらうはずだった65歳からの年金の4分の3にもなります。

妻が60歳に到達する前に寡婦年金をもらっていれば当然自分の年金を繰り上げすることはないかと思います。

しかし、が60歳になり、寡婦年金のことを考えずに年金を繰り上げ受給した場合、その後、妻が65歳になる前に夫が亡くなった場合にはもらうことができなくなります

寡婦年金は夫が年金をもらっていたら支給されないので、年齢の近い自営業のご主人がいる場合に注意すべきものといえます。

年金繰り上げも在職老齢年金に注意する(厚生年金のみ)

年金の繰り上げ受給の場合も在職老齢年金に注意する必要があります。

繰り下げに関わってくる65歳以降は47万円を収入と年金で超えたときに年金が減額されましたが、60歳から65歳未満の繰り上げに関わる期間は28万円を超えると年金が減額されてしまいます。

年金の繰り上げを考えるということは生活が厳しい方が多いと思います。
生活が心配で繰り上げをしたが、収入と合算して28万円を超えると減額されてしまいます。

できるならば60歳から65歳は働けるなら年金の繰り上げを出来る限り行わずに働いた収入のみで生活することをおすすめします。

まとめ

いかがでしたか?
年金繰り下げ、繰り上げも老後の資金計画の手段のひとつではあります。

しかし、繰り下げは人一倍健康で長生きをする方以外にはおすすめできないことがお分かりいただけたと思います。
また繰り上げも金銭的余裕がなく仕方のない場合を除けばおすすめいたしません。

とは言っても、老後の資金計画に何もやらないことがいいとは私も思っていません。

年金と「ご自身の貯蓄」をどのように運用して幸せな老後の生活を送るのか。

まずはあなたにあった老後の資金計画を検討いただくためにも、資金計画の専門家でもあるファイナンシャルプランナーに相談することをおすすめします。

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